2015年9月15日火曜日

IBMの思い出

バフェットが、現時点でお気に入りのIBMのことについて、少し書こうと思います。

もう20年ぐらい前の話ですが、私は日本IBMの某事業所の嘱託産業医で、週2回日本IBMに行っていました。驚いたことに、その時の米国IBMの副社長の一人は、産業医でした。産業医を副社長にする目的は、産業医学的な視点から労働生産性を高めることと、当時頻発していた労働訴訟から会社を守ることでした。これはIBMだけに限った話ではなく、米国のグローバル企業では決して珍しいことではありませんでした。

その米国IBMの副社長である産業医が、私が産業医をしている某事業所に来た時の話です。副社長が視察して指摘した点は2点。 

第一は、薬などを患者(社員)に渡す窓口に、なぜガラスの壁がないのかということでした。 「社員と言っても、信頼できない。中には、頭のおかしい社員もいるだろう。その人が、窓口を乗り越えて、中に入ってきたら、どうするつもりだ?」。

第二は、「頭がおかしいかもしれない患者(社員)が、医師と面談中に、拳銃か刃物で暴れたらそうするのか?」ということでした。

すぐに窓口には、JRの駅の窓口のようにガラスがはめられました。また、医師が面接する診察室の机の下には、守衛室に連絡する緊急ブザーが設置されました。

当時の私は、米国の危機管理の意識の高さに、我彼の差を見たものでした。

2015年9月6日日曜日

ファンダメンタル分析は、労多くして益なし


「波に乗る」現象があるかのような錯覚あるいは誤信は、投資信託の販売にうまく利用されています。

投資信託のリターンはほとんどランダムで、今までのリターンとその後のリターンに相関はほとんどないのに、直近のリターンがいい投資信託は、ファンドマネージャーの腕がいいので、その後のリターンもいいだろうと個人投資家は思い込んでしまいます。金融機関もその誤信を利用して、販売に力を入れます。

下図は、過去3年間にリターンが良かった投資信託をリターンの良かった順に10のグループに分けて、その後の3年間のパフォーマンスを、リターン、シャープ・レシオ、アルファで見たものです。1が過去のリターンが最も良かったファンドで、10が最も悪かったファンドです。

過去のリターンがとくに悪かったファンドのグループ(10)のリターンは、その後の成績も悪く、そのことは他の論文でも指摘されています。また、最も成績のよかったファンドのグループ(1)はその後の成績が悪い傾向に合うようです。しかし、それ以外は、明確な相関関係はありません。つまり、過去のリターンが良かった投資信託が今後も良いリターンを上げるという根拠は皆無なのです。

また、すべての分位において、アルファがマイナスであることにも注意してください。つまり、ファンドマネージャーの付加価値はないことを意味しています。

(A) リターン





(B) シャープ・レシオ





(C) アルファ





このようなデータがあるにも拘らず、個人投資家が過去のリターンがいい投資信託を買ってしまうのは、個人投資家の「平均への回帰」に対する認識の欠如にもよると思います。

「平均への回帰」は統計学上の明白な事実ですが、一般の方にはあまり認識されていません。年間60本のホームランを打った打者は、翌年は60本より少しのホームランしか打てないことが多く、また身長190cmの親から生まれた子は、平均よりは高くても190cmよりは小さいことが多いのです。

金融機関は、直近1年間ないし3年間のリターンがよかった投資信託を「いい投資信託」であるかのように、巧妙に宣伝していますが、そのような事実はありません。

このほかにも多くのエビデンスを、拙書「超・株式投資」で書きましたが、8割以上のファンドマネージャーは実力がなく、ベンチマークを上回ったとしても、それは偶然です。

「趣味」でファンダメンタル分析を楽しんでいる個人投資家もいるでしょう。私もその楽しさはわかります。しかし、資産を増やす目的で、ファンダメンタル分析の真似事をするのは、多くの人にとっては時間の無駄です。


2015年9月5日土曜日

なぜ人間は判断を誤るか?

医学と投資ほど、非科学的な誤信とそれを書いたトンデモ本がはびこっている世界はありません。本屋に行くと、「私はこの食事療法で癌を治した」という本が多く並んでいます。その大部分は誇張を交えた嘘ですが、中には本当に治った人がいるかもしれません。しかし、癌がその食事療法で治ったかは疑問です。稀ですが、癌が自然治癒することもあるからです。

また、ある有名私大元講師の医師が書いたベストセラーもトンデモ本です。彼はがん放置療法を勧めています。彼は文章がうまいので、「私はこの食事療法で癌を治した」という本で騙されない、ある程度知的レベルが高い人でも、彼のことは信じてしまいそうです。

どの世界でもおかしなことを言う人はいます。専門家の世界でも同じです。99.9%の医師はエビデンスを重視しているので、それに反することは正しいとは思っていません。しかし、99.9%の医師が正しいと思っていることでも、0.1%ぐらいの医師は正反対のことを言います。マスコミは、一般大衆の興味のあることを書いて、売り上げを伸ばすのが目的ですから、その0.1%の医師のことを面白おかしく大きく取り上げます。癌を治す怪しげな食事療法の話も、面白ければ、本になります。読者や視聴者は、それが科学的に正しいかどうかは、自分で判断しなければいけません。

株式投資の本の状況はそれ以上に深刻です。本屋に行くと、「私はこの方法で○億円儲けた」という素人が書いた本がたくさんあります。それが本当の話だとしても、大きなリスクをとった結果、運がよくて、たまたま儲かったのかもしれません。多くの人は、このような経験談が好きなようです。

科学的に正しいということは、エビデンスがあるということです。信頼性の高いエビデンスを作るためには、誤ったエビデンスを導きやすい要素、つまりバイアスをできるだけ排除する方法を採るように工夫します。バイアスとは、本来測れるはずだった正しい「真の値」から、ある方向へずれさせてしまう要因があって、それによって全体の結果に「ずれ」が生じることを指します。つまり、ある一定の方向への「偏り」があるということです。

単純化して言うと、このようなバイアスをできるだけ排除した上で、2群にある治療などをした結果を統計学的に有意差があるかどうかを検定して、有意差があればエビデンスになります。

自分が経験した例ではなく、これらのエビデンスが大事だということは、ほとんどすべての医師や学者には通じますが、一般の方にはなかなか通じません。私の著書「東大卒医師が教える株式投資術」では、「他人が作ったデータばかり引用して、自分の例がない」という全く的外れな意見もいただきました。

もちろん、エビデンスはすべてではありません。エビデンスがなくても正しいことは多くあります。しかし、エビデンスは、個人的経験よりはるかに科学的で真実に近いことであることは間違いがありません。


2015年8月4日火曜日

養老先生の思い出

私が医学部学生だった頃、「バカの壁」などでその後有名になった解剖学の養老先生が、私と同級生何人かを飲みに連れて行ってくれました。先生は「男と女の脳は違う」ということを非常に強調していたのを、今でも鮮明に覚えています。それ自体は昔から言われていることで、その後も「話を聞かない男 地図が読めない女」という本がベストセラーになりました。遺伝的か、先天的か、後天的かなどの議論はあるとは思いますが、この本のかなりの部分は納得できます。

現在、私が勤めている金融機関では、アクティブ運用のファンドのファンドマネージャーはほとんどが男性ですが、 パッシブ運用やパッシブクオンツ運用では、女性のファンドマネージャーもかなりいます。

上司は「女性の繊細で緻密なところがパッシブ運用に向いているからでしょう」と言っていますが、これは本当に女性がパッシブ運用に向いているのか、あるいは会社(上司)が「アクティブ運用=アニマル・スピリット=男性」という先入観や思い込みで、単にパッシブ運用に女性を多く採用した結果なのか、判断に迷います。